東京地方裁判所 平成7年(ワ)25264号 判決 1997年2月26日
原告
須浪弘子
被告
稲葉弘明
主文
一 被告は、原告に対し、金一二一万円及びこれに対する平成七年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金三二三万五〇〇〇円及びこれに対する平成七年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実
1 原告は、同人所有の普通乗用自動車(メルセデスベンツ一九八五年型・四ドアセダン二三〇E。以下「原告車」という。)を運転していたところ、平成七年七月一一日午後三時三〇分ころ、東京都品川区北品川四丁目先新八ツ山橋第一京浜国道において、被告が運転する普通乗用自動車に追突された(以下「本件交通事故」という。)。
2 原告車は本件交通事故により全損となつた。また、本件交通事故による代車期間は二一日間である。
二 争点
1 原告の主張
原告は、本件交通事故により次の損害を受けた。
(一) 原告車の時価 二五〇万円
原告車は、一九八五年型ベンツであり、自動車登録から約一〇年を経たにもかかわらず、走行距離が短く、また、メンテナンスが良いため、その時価は二五〇万円に上る。
(二) 代車料 七三万五〇〇〇円
原告車と同じベンツの代車料は一日当たり三万五〇〇〇円であり、代車期間は二一日間であるから、代車料は七三万五〇〇〇円である。
2 被告の主張
(一) 原告車の時価は、八〇万円である。
(二) 原告には、原告車の代車としてベンツを使用する必要性がない。
したがつて、国産車の代車料一日当たり一万円とし、代車期間二一日間として算定した二一万円が本件交通事故との間に相当因果関係がある代車料に係る損害である。
第三当裁判所の判断
一 原告車の時価について
1(一)原告の主張に沿う証拠として、金子俊朗作成の評価意見書(甲第三号証)及び同人の証言があるところ、金子俊朗が原告車の時価を二五〇万円と評価した根拠は、<1>自動車登録から約一〇年を経過しているにもかかわらず走行距離が三万八〇〇〇キロと少ないこと、<2>メンテナンスが良くてさび一つ無く、きれいに乗つていること、<3>人気のある車であり稀少価値があることというものである(甲第三号証一丁裏、同人の証人調書一項ないし九項・一六項ないし二二項)。
(二)(1) しかしながら、金子俊朗は、輸入車中古自動車価格ガイドブツク、レツドブツク、オークシヨン情報等の客観的資料に基づかずに、自己の経験に基づいて、原告車の評価を行つている(甲第三号証二丁表、同人の証人調書四項・二三項ないし二六項)ところ、同人が、修理・点検・整備を業とする者であつて、中古車の販売・仲介をしていないこと(甲第三号証一丁裏、同人の証人調書一項・二項・二三項・三四項)からすると、同人の二五〇万円という評価が直ちに原告車の時価といえるか疑問がある。
(2) そして、原告車の昭和六〇年九月三〇日の販売価格が五七〇万円(乙第六号証二丁)、メルセデスベンツ四ドアセダン二三〇E(原告車は一二三系であるが、次の中古価格は原告車より一ランク上の一二四系のものである。乙第六号証二丁)の中古価格が、輸入車中古自動車価格ガイドブツク(乙第六号証No.1No.2)によると、一九九三年型三四五万円・一九九二年型三〇五万円・一九九一年型二六五万円・一九九〇年型二二五万円、レツドブツク(乙第六号証No.3)によると一九八七年型一六〇万円、オークシヨン情報(乙第六号証No.4)によると一九八六年型七七万円であるから、原告が主張するような前記<1>ないし<3>の事情があつたとしても原告車の時価が二五〇万円に上るとは考えにくい。
(3) さらに、原告車のマフラーが腐食・破損していること(乙第一号証の六の一丁下段の写真、証人小関善吉の証人調書一二項)に加え、金子俊朗がいう稀少価値とは、自動車登録から約一〇年を経過し一九八五年型が少なくなつたため生じた価値というものである(同人の証人調書一六項)が、一九八五年型が特に人気のある車でない(証人金子俊朗の証人調書三六項、証人小関善吉の証人調書三項・四項)ので経済的意味での稀少価値があるとは考えにくいことからすれば、金子俊朗が原告車を二五〇万円と評価した根拠のうち<2>及び<3>は存しないというべきである。
(三) したがつて、原告の主張に沿う、金子俊朗作成の評価意見書(甲第三号証)及び同人の証言は採用できない。
2 一方、アジヤスター長谷正彦作成の自動車車両損害調査報告書(乙第一号証の一ないし六)及び小関善吉の証言では、原告車の時価を一〇〇万円としている(なお、小関善吉は、同人作成の鑑定書(乙第六号証)では原告車の時価を八〇万円としているが、原告車の塗装が非常に良く、車検の有効期限が残つていることなどから再度検討すると原告車の時価を一〇〇万円とするのが相当であるとしている(同人の証人調書三九項・四一項)。)。
そして、原告車の時価を一〇〇万円とする長谷正彦作成の自動車車両損害調査報告書(乙第一号証の一ないし六)及び小関善吉の証言は、輸入車中古自動車価格ガイドブツク等の資料(前記1(二)(2))及び原告車の状況(前記1(二)(3))に照らしても、合理的なものと考えられる。
したがつて、原告車の時価は一〇〇万円というべきである。
なお、小関善吉は原告車を現実には見ていない(同人の証人調書三八項)が、同人の評価は、現実に原告車を見た上で評価したアジヤスター長谷正彦(証人金子俊朗の証人調書一〇項・一一項、証人小関善吉の証人調書一六項・一七項・四〇項)作成自動車車両損害調査報告書(乙第一号証の一ないし六)からしても、不合理なものとはいえない。
二 代車料について
原告は原告車の代車としてジヤガーを使用したが、それは従来から外車に乗り付けていたことによるものである(金子俊朗の証人調書一五項・三二項、弁論の全趣旨)。
しかしながら、そのような事情ではベンツを代車として使用する根拠とはならない上に、他にベンツを代車として使用すべき事情はうかがえない。それゆえ、原告車の代車料は国産車の代車料に基づいて算定されるべきところ、その一日当たりの代車両は、被告主張の一万円を上回らない(乙第三号証から第五号証まで)。
したがつて、右一万円に代車期間二一日間(第二の一2)を乗じた二一万円が、本件交通事故と相当因果関係のある代車料に係る損害である。
三 結論
よつて、原告の請求は、被告に対し、金一二一万円及びこれに対する平成七年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限りで理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、主文のとおり判決する。
(裁判官 栗原洋三)